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第1回 コピー武者修行

 

コピーライターの清水です。

 

先日の会議で、「弊社のHP、もうちょっと充実させていこう」という話になりました。弊社のような広告制作の会社って、いまいち何をやるのか、何をできるのか、いまいち伝わっていないのではないか?とおもうのです。広告を作るにしても、なんらかの課題を解決するツールとして広告が存在しています。

弊社HPのコンテンツとして、キャッチコピーを制作する際の思考法を公開するのはどうかという話になりました。それがこの企画です。具体的には、宣伝会議賞一次審査通過以上のキャッチコピー・CM作品を載せた文集『SKAT.』の中から任意に課題を選んで、課題とインサイトを分析した後、キャッチコピーを制作し、それを審査員に好き嫌いで判定してもらいます。

審査はどうするか。通常ならば先輩に見てもらったりするのでしょうけれど、今回はその方法を取りません。ずばり「素人」に見てもらいます。広告を作るのは広告人ですが、その広告を見るのは一般人です。およそ人にことばを届ける仕事をする上で、どちらを重視すべきかは一目瞭然。技法やら情熱やら理屈やらをこね回しつつも、結局のところ、素人にウケるコピーを書かねば無意味なのではないでしょうか。というわけで、弊社の経理担当者が審査員に就任しました。

 

コピーライターの頭の中を公開する

 

ということで、この連載企画では毎週1課題を『SKAT.』から選び、課題の分析、コピーの一覧、審査結果まで、まるごと公開します。この企画の意図は、とうぜん僕自身の修行の意味もありますが、何を考えているかわからないコピーライターが何を考えているのかを見せたら、おもしろいのではないか?というコンテンツ的要素が大きいのです。

今回の課題は、『SKAT.17』からニチバンのセロテープ。

2018年、セロテープは発売70周年を迎えます。1948年の発売以来、長年にわたって皆さまにご愛顧いただいてきたセロテープ。実は環境にやさしい天然素材でできているのですが、まだまだ認知が進んでいません。そこでセロテープが、木材パルプや天然ゴムから作られている地球にやさしいエコ製品であることを、多くの方に知ってもらえる広告アイデアを募集します。

キャッチコピー一覧

 

まずは、書いたものから見てみましょう。あなたが好きなもの、嫌いなもの、意味が通らないものは何ですか?

1. 定番の、貼りツヤです。
2. 貼る資源。
3. 透明感のある貼り感です。
4. むしろ、貼らないと不安。
5. おかしの袋と、オゾンホールに。
6. 環境に悪いテープだと、地球に気まずい。
7. 定番なのは、やさしいから。
8. 貼る天然資源。
9. 貼ると落ちつくのは、湿布だけじゃない。
10. セロテープとは、貼る保険である。
11. 地球にも貼るがきた。
12. 貼るかなる大資源。
13. アース・ミュージック・アンド・セロテープ
14. エゴより、エコで貼りあって。
15. 透明って、ナチュラルだ。
16. 不安をふさぐ、透明な保険。
17. 地球に申し訳の立つテープです。
18. これがないと、貼りがない。
19. 安心を貼っている。
20. ポテチの落下防止に。
21. 傷害保険。生命保険。透明保険。
22. 地球の養生テープ。
23. 貼るって、やさしさだ。
24. セロテープは、ビジネスマナーだ。
25. オゾン層から、人質の口までふさげる。
26. 念のため、に一役買っている。
27. ある種の親切心。
28. 地球にも、人間にも、やさしいテープだってさ。
29. セロテープを使う人は、地球に優しい人だ。
30. 貼ればごまかせる。

 

審査員の判定

 

次に、経理担当者(Hさん)に、30本のコピーの中から共感できるコピーと意味がわからないコピーを最大5本ずつ選んでもらいました。それが以下。

共感できるコピー
7. 定番なのは、やさしいから。
8. 貼る天然資源。
13. アース・ミュージック・アンド・セロテープ
24. セロテープは、ビジネスマナーだ。
29. セロテープを使う人は、地球に優しい人だ。

意味がわからないコピー
11. 地球にも貼るがきた。
12. 貼るかなる大資源。
17. 地球に申し訳の立つテープです。
18. これがないと、貼りがない。

重視するのは後者の方です。「これ好き」を聞いて喜ぶよりも、「意味わかんない」を潰していく作業の方が大事だとおもうからです。

11,12,18は、「貼る」を「春」「遥か」「ハリ」にかけてあります。書いている本人とちがって、読み手には伝わらないことがわかりました(これは結構重要な発見だった)。したがって、ダジャレ的なコピーは書き方を工夫しないと逆効果なのです。

17は、エコから人間の存在自体が「地球に申し訳ない」ことが連想されたので、セロテープは逆に地球に申し訳が立つ存在であることをアピールしましたが、ダメでした。

課題の分析

 

最後に、理屈の部分。僕がどうやって課題に向き合ったかを公開します。最初にやったことは、課題を単語単位に分解することでした。

2018年、/セロテープは/発売70周年を/迎えます。1948年の/発売以来、/長年にわたって/皆さまに/ご愛顧いただいてきた/セロテープ。/実は/環境にやさしい/天然素材で/できているのですが、/まだまだ/認知が/進んでいません。/そこで/セロテープが、/木材パルプ/や天然ゴムから/作られている/地球にやさしいエコ製品/であることを、/多くの方に/知ってもらえる/広告アイデアを/募集します。

適宜スラッシュを入れて単語で見ていくと、「発売70周年」「地球にやさしいエコ製品」が目立ちますね。そのなかでも、環境にやさしい天然素材であることを認知させたいことから、「地球にやさしいエコ製品」を核として書いていくべきだとわかります。

次に、セロテープの存在意義を考えてみます。セロテープは家庭でも会社でも、おなじみの製品かのようにおもえますが、使う機会がそんなにあるか?というと、そうでもない。ちょっとした機会にちょっと使いますよね。では何の用途で使うのでしょうか?だって、セロテープ以外にも強粘着な製品はごまんとある訳だから。別にアラビックヤマトでもいいじゃないですか。セロテープを用意する必要性はないようにおもえます。でも何となく「ある」。…いや、そもそもなぜ売れたのか?いろいろ疑問が出てきたので、調べた内容と自分の思考を合体させて思考を整理してみました。以下はメモの転記です。

Q.セロテープはなぜ売れたか?
・画期的だった…のりじゃない、手で切れる、貼ってはがせる、透明フィルムの新しさ
・広告した…宣伝カー、キャッチコピー「透明でよくつく!」、マネキン・実演販売
・GHQの要請…アメリカでは一般的、アメリカ的な商品、戦後開発、セロテープとカッター台変わらず

Q.セロテープの機能とは?
・貼る…紙の破れたところ、PCや机(ひっくり返して両面で)
・ふさぐ…ちょっとした箱の空き、封筒の口、プラスチック製品のヒビ、おかしの袋
・補強する…紙箱のフチ、ボールペン

Q.なぜセロテープは現存しているか
・安心感…貼ると落ち着く、保険(のようなもの)
・ないと不安…定番感

ああそうか、セロテープを貼っているのは、要するに安心感を貼っているのか、とわかりました。ちょっと心配なときに、テープを「添える」。そんな存在だからこそ、ないと不安なんですね。

セロテープの存在意義がわかったところで、コピーを書く段にうつります。セロテープの存在意義を押さえながら、エコを足す。「エコ」をキーワードにマインドマップを書き、存在意義とマインドマップの双方から抽出したアイデアを元に30本ほど書いてみました。後から見返すとツッコミや改善案が生まれるのは世の常です。

 

まとめ

 

1. セロテープを貼ることで、人は安心を貼っている
2.ダジャレコピーには気をつけよう

これを読んだあなたも、ぜひキャッチコピーに挑戦してみてください。

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