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第1回 キャッチコピーの断面図

 

コピーライターの清水です。

弊社は、「ことば」と「デザイン」で、課題の発見から解決までを実現する会社です。このブログでは、そんな弊社の「ことば」の側面に光を当てる目的から、毎週・隔週で記事を連載していきます。
本記事は記念すべき第1回。「キャッチコピーの断面図」と題して、制作意図がわかりづらいキャッチコピーがどのような目的で作られたか、思考プロセスをさかのぼってみる隔週連載企画です。コピーライターの思考法に触れるとともに、この思考法を用いて企業の課題を解決していることを知っていただくのが、この連載の目的です。

 

 

キャッチコピーの断面図を観察する

 

世の中のコピーって、なんでこういう文になったの?とおもうものがありませんか。フシギな発想法をつかって、天才的なひらめきで「おもいつく」ものなんじゃないかと。

トースト娘ができあがる。(全日本空輸)
ピッカピカの一年生(小学館)
ハエハエ、カカカ、キンチョール(大日本除虫菊)
人類は、男と女とウォークマン。(ソニー)

 これらのコピーには、ちゃんと構造と意図が存在します。そして、これらのカタチに落ち着いた理由を逆算して考察するのがこの連載企画のキモです。たとえば国語の問題みたいなものです。出題者は小説家がその作品を書いた経緯や心情は知らないにせよ、文章の組み立て方や、話の持っていき方から逆算して「筆者の考えとして正しいものを次のア〜エから選びなさい」という設問をつくるわけです。

一方で、筆者の考えを問う国語の問題は、実は筆者の考えとズレているという話もあります。じゃあ国語はダメか?というと、そうでもないでしょう。それは筆者の心情と文章の構造は別問題だからです。文章の構造を学び、論理的な思考を養う意味では、国語の問題はとても有用です。この連載企画も、こちらの想像が当たっているか否かよりも「こういう思考プロセスをたどるのだ」というところを視える化するところに目的があるのです。

 

課題分析

 

というわけで、往年の名コピーや最近のコピー、公募コンテストの通過コピーなどを気分で選び、包丁を入れて、中身ってこうなってるんじゃない?という話ができたらと思っています。

さっそく1つやってみましょう。

 

きれいなおねえさんは、好きですか。

 

コピーライター:一倉宏
企業:松下電工/ナショナル スチームクルクル
制作:1993年

スチームクルクルという商品のキャッチコピー。蒸気で寝癖を直し、毛先までしっとりになるヘアスタイリング用品です。

※リンク先のCM動画が存在しましたが、削除されてしまいました…

【構造】
きれいな/おねえさんは、/好きです/か。

【成分】
ひらがな・漢字

 

考察

 

まず、「好き」以外、すべてひらがなであることに注目したいですね。「美しい」でも「うつくしい」でもない。綺麗ではなく「きれい」。ビューティ系ではなくキュート系の女性を想定していることが見て取れます。

CMを観ると20代後半の女性の後輩の若手社員が登場します。つまり、ターゲットは幼さの残る20代前半の女子社員。いそがしく髪を整えている様子から、商品の訴求ポイントは速くキレイになれる点。この部分は水原希子が登場するパナソニックビューティのCMが踏襲しています。

ラストにキャッチコピーとともに登場する先輩社員は、後輩(=ターゲット)が目指すべき理想像として描かれます。つまり、「きれいなおねえさん」は、ターゲット自身ではなく、彼女たちの未来の姿ということです。先輩の年齢層は主要ターゲットではなく、サブでにらむ程度と考えられます。

「好きですか。」という問いかけは、当然ながら男性に向けられたものではなく、ターゲットの女性に向けられたもの。男性に向けるなら、「お姉さん」「お姉ちゃん」「お姉様」、もしくは時代背景に鑑みて「オネーサン」とする可能性もありますね。問いかけという形式は、実はYESかNOを迫る強い言葉でもあります。ひらがなで表記しながらも、「きれいなおねえさんになるの?ならないの?」と二者択一の問いかけをしているところがポイント。

影の主人公として先輩社員の弟も見逃せません。彼は要するにターゲット女性の恋人や父親です。きれいなおねえさんが誕生しますよ、記念日とかのプレゼントにどうですか、みたいな訴求にも配慮してCMが設計されています。実に如才がないCMだとおもいます。

ここまでをまとめると、想定されるターゲットは

・20代前半の若手女性社員(OL)
・キュート系(これから大人の女性になりたい)
・時間がない
・プレゼントを探している父親
・夫・彼氏

上記の制約条件の下でキャッチコピーが書かれたと思われるので、おそらくこの案件は先にCMが作られているとおもわれます。文字の種類や音読した時のとおり、少しのなまめかしさ、その中に隠れた鋭い問いかけ。すべてが合理的な計算のもとに作られた作品といえます。

結論

 

ここまで考えて来ましたが、ターゲットのインサイトとしては、「時間と美が売っていれば買うのに」というところが見えてきます。現在でも変わらない、働く女性の悩み。このインサイトに接したとき、この製品が解決すべき課題とは、新たに登場したイマドキのOL世代が感じる「朝にヘアセットする時間がない」と「でも美しくいたい」という一見相反する思いではないでしょうか。これを蒸気の力で解決するのです。そして、この製品の長所を、ターゲットがより直感的に・想像できるように伝えるツールのひとつが、キャッチコピーやボディコピーです。言い換えれば、「ことば」の面から課題を解決するのが、コピーの役割なのです。

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